先月のこと、立ち寄った近所の書店でFlyFisher誌の表紙の下に印刷された小さなタイトルに目が止まりました。「ボンホフ・リールの情熱」。タイトルに惹かれてそのページを開いたら、そこには東さんが翻訳したロッドビルダーのジェフ・ワグナーさんの文章が載っていました。それを見てすぐに「あっ、あのリールだ」とあの時のことを思い出しました。

6月初旬、オーストラリアから4年ぶりに来日したロッドビルダーのニックさんとニックさんをサポートしていた東さんの3人で釣りをする機会がありました。5月の好天とはうって変わって6月に入ると東北は雨模様の天気が続き、釣りにとってはあまり良い条件ではなかったにもかかわらず、温泉宿に泊まりながらの釣り旅は楽しく思い出深いものになりました。その時の宿でニックさんから見せてもらったリールがジェフ・ワグナーさんが製作したボンホフ・リールでした。ジェフ・ワグナーさんはアメリカのロッドビルダーとして知られている人で、ニックさんのロッドビルドの師匠でもあります。ボンホフ・リールは何度か見ていますが、目の前に出されたリールはレプリカリールとは思えない完成度と質感がありました。本文にも製作期間のことが書かれていますが、ニックさんからジェフさんがリール製作をはじめてから5年という話を聞いてびっくりしました。経験も技術もないところから物を作り出すことは容易なことではありません。しかも、あのボンホフ・リールです。以前、内部構造を少し見せてもらったことがありますが、構造の複雑さとデザインに見入ってしまったことを覚えています。そのリールを素人同然の人が一から初めて5年で完成させた情熱は何なのだろうと気になっていました。

彼の文章の最後に彼の父親のことが書かれています。機械工だった父親は彼にホワイトカラーの仕事につくように望んでいたそうですが、「きわめて長い遠回りのすえ、私は父親と同じように旋盤の前にたどりついた。」と彼は言っています。古いマニュアルの旋盤やミリングマシンを使ってボンホフがそうしたように長い時間と試行錯誤を重ねて作られたリールは、ジェフさんの情熱がこもったボンホフ・リールになったと思います。

ジェフさんは製作にかかった長い時間のことを「ボンホフの天才を納得」し、「父親とのつながりを再確認できた長い旅」と称しています。同じ物を作る職人として単純にすごいなーと思うと同時に彼のものづくりに対する情熱の熱を少しだけ分けてもらったような気がしました。まだ読んでいない方は、ぜひご一読を。